陸海空自衛隊に温度差? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(1)【林直人】
第2章:暴かれた“自衛隊票”の地図
パネルデータで浮かび上がる選挙と軍事の癒着構造
■ 2.1. 従属変数:選挙結果という“動かぬ証拠”
本分析の従属変数は、佐藤正久氏が比例代表で挑んだ過去の参院選における市区町村別の得票数と得票率である。
総務省・選管が公表する公式データを徹底収集し、合併の影響を補正。つまり、全国津々浦々の票の動きが、どこまで“自衛隊票”と重なっているのかを定量的に追跡できる仕組みを作り上げた。
選挙データは民主主義の聖域である。しかし、それを並べてみると、まるで「誰がどこでどれだけ票を出したか」を克明に示す政治的カルテが浮かび上がるのだ。
■ 2.2. 主要独立変数:幻の“自衛隊人口”を推定する
自衛隊員がどの市区町村に、何人暮らしているのか。
驚くべきことに、これは公的に公表されていない。
そこで本研究は大胆な推定に挑んだ。
(1)基地・駐屯地の地図化
防衛省の公開資料を洗い出し、全国の陸・海・空の全施設を市区町村単位でマッピング。
(2)部隊規模の逆算
師団=6,000〜9,000名、旅団=3,000〜5,000名、連隊=約1,000名――部隊の定数を基に所属人員を推定。旭川(第2師団)、船橋(第1空挺団)など、特定自治体の自衛隊プレゼンスを数値化した。
(3) SDF_Personnel_EstとSDF_Densityの作成
推定された人員数を「SDF_Personnel_Est」として変数化。さらに有権者数で割り、**「有権者に占める自衛隊員の割合=SDF_Density」**を導出した。
これこそが、本研究の最も危険な核心だ。
なぜなら、民主主義国家の有権者構造の中で、自衛隊がどこまで組織票を形成しうるかを初めて数値で暴いたからである。
■ 2.3. 制御変数:見え隠れする「佐藤シフト」
分析を精緻化するために、以下のダミー変数を投入した。
・Sato_Former_Post_Dummy:佐藤氏がかつて司令を務めた帯広・青森・福知山の駐屯地が所在・隣接する市町村を「1」とした。これは、**彼自身の人脈とカリスマが票を押し上げる“佐藤シフト”**を捉えるための仕掛けである。
・JGSDF_Dummy / JMSDF_Dummy / JASDF_Dummy:陸・海・空のどの軍種が地域を支配しているのかを切り分ける指標。
・社会経済制御変数:所得、人口密度、年齢構成などを統制。つまり、「自衛隊票効果」が純粋にどこまで現れているかを洗い出す。
表1: パネルデータセットの記述統計量
変数名 |
観測数 |
平均値 |
標準偏差 |
最小値 |
最大値 |
Sato_Vote_Share (%) |
7,168 |
0.25 |
0.89 |
0.00 |
15.32 |
SDF_Personnel_Est (人) |
7,168 |
155.6 |
987.3 |
0 |
18,500 |
SDF_Density (%) |
7,168 |
0.18 |
0.95 |
0.00 |
22.45 |
Sato_Former_Post_Dummy |
7,168 |
0.002 |
0.045 |
0 |
1 |
JGSDF_Dummy |
7,168 |
0.08 |
0.27 |
0 |
1 |
JMSDF_Dummy |
7,168 |
0.02 |
0.14 |
0 |
1 |
JASDF_Dummy |
7,168 |
0.04 |
0.19 |
0 |
1 |
注: 観測数は市区町村数(約1,792)×選挙年(4回)に相当。SDF_Personnel_Est は推定値。